理学部について
1.国外における研究発表援助
※本学では、国外の研究集会で研究発表を行う大学院生に対して、渡航費用の援助を行っています。
野嶋 優妃さんの国際会議参加レポート
(自然科学研究科 化学専攻 博士後期課程2年 岩田研究室)
参加学会:Trombay Symposium on Radiation and Photochemistry (TSRP-2014)
開催期間:2014年1月6日~1月9日
場所:インド(Bhabha Atomic Research Center, Mumbai)
タイトル:「リポソーム脂質二重膜のエネルギー移動特性の液晶相とゲル相による違い:六種類の
リン脂質についてのピコ秒時間分解ラマン分光法による評価」Energy transfer
characteristics of liposome lipidbilayers formed by six phosphatidylcholines
examined with picosecond time-resolved Raman spectroscopy:
difference between liquid crystal phase and gel phase
【発表内容の概要】
ピコ秒時間分解ラマン分光法を用いて生体膜のモデルである、リポソーム脂質二重膜中におけるエネルギー移動過程を観測した。脂質二重膜中にtrans-スチルベンを封入し、励起光を照射した。 励起光によって余剰エネルギーを与えられたスチルベン分子は周囲の溶媒分子にエネルギーを受け渡すことで冷えていく。励起状態のtrans-スチルベンのC=C伸縮に由来するラマンバンドの位置は、 スチルベン分子の温度を反映する。スチルベン分子が冷えていく過程をラマンバンドの位置の時間変化から観測した。
六種類のリン脂質を用いてtrans-スチルベンを内封したリポソーム脂質二重膜を調製した。それぞれの膜中におけるスチルベン分子の冷却過程を観測した。脂質二重膜は温度によって、 脂質の炭化水素鎖の状態が異なる液晶相とゲル相を示す。六種類の膜中でのスチルベン分子の冷却速度は、液晶相の膜中の方がゲル相の膜中よりも速くなった。 この結果から、脂質二重膜中における熱の拡散は周囲の水の影響を強く受けていることが示唆された。
ポスター発表の風景
TSRPは、放射線化学と光化学の研究者が集まる学会です。二年おきにインド、ムンバイにあるBahbha Atomic Research Centerで開催され、今回が12回目の開催です。参加者は全体で二百人程度です。 インドからの参加者が最も多く、他には日本、韓国、台湾、フランス、ポーランド、イギリス、ドイツからの参加者がいました。私は二年前にもこの学会に参加しました。
学会中は朝から講演を聞き、午後にポスター発表があり、その後にまた講演を聞くというサイエンスにどっぷり浸る日々を過ごしました。国際会議なので発表も連絡事項の伝達もすべて英語で行われます。 そのせいで常に緊張しているのか、ホテルに戻ると疲れて毎晩すぐに寝てしまいました。
講演の後には必ず発表者に質問する時間が設けられます。私は今回の学会で質問しようと決意して出発しました。質問を考えながら講演を聞きました。質問を思いつき、講演後に手を上げようと決めると、 その時点から胸がどきどきして仕方がなかったです。質疑応答はすぐに終わりましたが、とにかく質問できたこと、しかも英語で質問できたことは私にとって大きな一歩でした。学会期間中に二回質問しました。これを契機に他の学会でも質問しようと思いました。
ポスター発表では複数のインドの学生が私の研究に興味を持ってくれました。インドの学生はみな熱心なので、説明していて楽しかったです。二年前に私のポスターを見に来てくれたインド人の研究者が今回も来てくれました。二年前の内容を覚えていてくれて感激しました。 多くの方々から今後の研究の参考になるアドバイスをいただきました。ポスター発表の結果、ベストポスター賞をいただきました。光化学の分野では116件のポスターがあり、そのうちの7件に賞が与えられました。これまで取り組んできた研究が評価されて誇らしかったです。 この賞を励みにさらに頑張ります。
ベストポスター賞を受賞!
【その他】
ムンバイは大都市ですが、研究所の付近には山があるからか会場の周りには野生動物がたくさんいました。犬、猿、コウモリ、ヤモリ、リスなど様々な生き物を見ました。会場の梁をリスが走っていたり、講演中に鳩の鳴き声がずっと響いていたりしたこともありました。 研究所の中は街と比べてよく整備されているのですが、野生動物がうろうろしているのを見ると私はインドにいるのだなと強く感じました。
学会中は研究所とホテルを往復するだけでしたが、車から街を見るだけでもいろいろ感じることがありました。とてもきれいな建物もあれば、トタンで作った家がひしめいている場所もありました。インドの貧富の差は日本よりもっと大きそうでした。 また、日本より宗教的なものを目にする機会が多く(ヒンドゥー教の神様のステッカーなど)、神様をより身近にとらえているように感じました。私はインドには行ったことがありますが、まだインドのほんの一部しか見ていません。これからインドの他の面も見ることができたらいいなと思いました。
柏﨑 隼さんの国際会議参加レポート
(日本学術振興会特別研究員PD 生命科学科 馬渕研究室)
参加学会:UK-Japan Cell Cycle Workshop
開催期間:2011年4月
場所:UK(ウィンダミア)
【発表内容の概要】
私は2011年4月にイギリスの湖水地方、ウィンダミアで開かれたUK-Japan Cell Cycle Workshopに参加し、ポスター発表を行いました。 そこでは分裂酵母のキネシン様タンパク質についての発表を行いました。自身の発表ではもちろん、他の参加者の発表でも非常に有益なディスカッションができ、 新たなつながりもできました。 共にノーベル生理学・医学賞受賞者であるPaul Nurse、Tim Huntなど英日における著名な細胞周期の研究者が集まる会で彼らの講演を間近で聴くことができたことは 貴重な体験だと思いました。
Excursionではウィンダミア湖をボートクルーズで一周。湖水地方の美しい景観と懇親会のラム肉が(研究発表以外で)一番の思い出です。
同じ年の6月にはアメリカのボストンでもポスター発表しました。こちらは分裂酵母の国際会議なので材料は同じでも分野が多岐にわたるという性質のため、また違った 視点から勉強することができました。自分と近い細胞骨格の研究をしている方々との情報交換(スパイ活動?)もしつつ、有意義な毎日でした。
野嶋 優妃さんの国際会議参加レポート
(自然科学研究科 化学専攻 博士後期課程2年 岩田研究室)
参加学会:国際光化学会議 (XXV International Conference on Photochemistry, ICP 2011)
開催期間:2011年8月7日~8月12日
場所:中国 北京市(Beijing Friendship Hotel)
タイトル:「ピコ秒時間分解けい光分光法を用いたリポソーム脂質二重膜中の粘度の見積もり」
Viscosity in Lipid Bilayer Membrane of Liposome Estimated with Picosecond
Time-Resolved Fluorescence Spectroscopy
【発表内容の概要】
生体膜のモデルであるリポソームを用いて、脂質二重膜中の粘度を見積もった。リポソーム脂質二重膜中にけい光プローブ分子としてtrans-スチルベンを封入し、 そのけい光寿命を測定した。スチルベンのけい光寿命は周囲の粘度によって変わる。そのため測定したけい光寿命の値から、膜中の粘度を見積もることができる。 けい光寿命からの見積もりの結果、リポソーム脂質二重膜中において粘度が小さい環境と、その50倍程度の粘度をもつ環境の二種類の環境の存在が示唆された。
【学会中の行動と所感】
今回参加した会議は光化学の学会である。基礎的な光化学、光触媒など様々な分野の研究者が集まり、33カ国から360 人以上が参加した。会議はすべて英語で進行され、英語漬けの日々を過ごした。私は英語が好きなのでずっと英語を使うことは嫌ではなかったが、やはり負荷が大きく毎日疲れてすぐに寝てしまった。
学会では朝から夕方まで口頭発表を聞き、その後にポスター発表の会場に向かうという生活を過ごした。口頭発表は英語で行われ、どんどん説明が進んでいくので内容を理解しようといつも必死だった。以前に国際会議に参加したときよりは発表内容を理解できた気がするが、全然内容がわからないことも多々あり、自分の勉強不足を強く感じた。
自分のポスター発表では、多くの人からアドバイスをいただくことができ非常に充実した時間を過ごせた。自分の研究に興味をもってくれる人が予想以上に多くて嬉しかった。今まで注目していなかった点を指摘され、実験結果に対する考察を深めることができた。発表を聞きに来てくれた人の出身国は、フィンラン、インド、メキシコ、ポーランド、オランダ、韓国など国際色豊かであった。遠く離れた国に暮らす人と研究の話をして繋がることができ、科学は国境を超えると実感じた。
学会期間中に、昨年度まで研究室に滞在していた中国人のポスドクの方々と再会できた。再会できただけでも嬉しいのに、食事をごちそうしてくださったり、会場の近くを案内してくださったりした。北京では中国語が理解できないと何をするのにも不便なので、二人に面倒をみてもらってとても助かった。二人が本当によくしてくださるのでありがたいのを通り越して申し訳なくすら感じた。二人のおかげで北京を訪れる前よりも中国に対する印象はよくなり、中国に興味をもった。より深く中国の文化を知りたいと思い、帰国後に中国語の勉強を始めた。まだ簡単な挨拶しかわからないが、まずは中国語で簡単な会話ができるレベルを目指して勉強を続けるつもりだ。
国際会議に参加して、他国では修士課程の学生が国際会議に参加することは少ないことがわかった。修士課程在学中に国際会議で発表する機会を与えていただいたことを光栄に思う。数多くの研究者と研究について議論できたことは、研究の励みになった。また国際会議で発表できるように、日々の研究に取り組んでいきたい。
照沼 淳子さんの国際会議参加レポート
(自然科学研究科 生命科学専攻 博士課程2年 花岡研究室)
参加学会:Eukaryotic DNA Replication and Genome Maintenance
開催期間:2011年9月6日~9月11日
場所:ニューヨーク(Cold Spring Harbor Laboratory)
【発表内容の概要】
私は2011年9月6日から11日までニューヨークのCold Spring Harbor Laboratoryで開催されたEukaryotic DNA Replication and Genome Maintenance という研究集会で ポスター発表をしてきました。
私は、PCNAというタンパク質と他のタンパク質とのタンパク質間相互作用を研究しており、研究を進める上でPCNAと結合するタンパク質に共通して存在するアミノ酸配列を 新たに発見したノルウェーのグループの論文を参考にしてきました。ポスター発表では、その論文の第一著者の方から様々なアドバイスを頂き、その後の実験の方向性を決断する大きな手がかりを得ることが出来ました。
また、この学会は国や年齢を問わず寝食を共にするプログラムなので、私はアルゼンチンから来た大学院生と同室でした。 研究以外にもお互いの国や学校のことを英語で話しながら生活を共にしたので、研究交流だけに留まらず異国文化に慣れ親しむことも出来ました。 この学会での発表経験はその後の研究を展開する上でとても糧となり、また、研究以外の交流の体験は視野の拡大に繋がりました。
論文の第一著者である
Karin M. Gilljamさん
(ノルウェー生命科学大学)に
助言をもらう照沼さん
一週間生活を共にした
Juliana Speroniさん
(ブエノスアイレス大学)と
Cold Spring Harbor
Laboratory前で
杉石 露佳さんの国際会議参加レポート
(自然科学研究科 化学専攻 博士課程3年 中村研究室)
参加学会 : 第16回IUPAC有機合成指向有機金属化学国際会議
OMCOS_16(The 16th IUPAC International Symposium on Organometallic
Chemistry Directed Toward Organic Synthesis)
開催期間:2011年7月24~7月28日
場所:上海国際会議中心(Shanghai International Convention Center)
タイトル:「2価の亜鉛触媒を用いた交差脱水素化反応によるプロパルギルアミンとアルキンから
の窒素架橋1,6-エンインの合成」Synthesis of N-Tethered 1,6-Enyne from
Propargylic Amines and Alkynes by Zinc(II)-Catalyzed Cross-Dehydrogenative
Coupling (CDC)
【学会中の行動と所感】
私は現在、プロパルギルアミン類の特異的反応性について研究を行っています。最近、二価の亜鉛存在下でプロパルギルアミンを末端アルキンと作用させると、 廃棄の一切ない環境調和型のクロスカップリングが進行し、有機合成化学において有用な窒素架橋1,6-エンイン骨格を形成できることを発見しました。
今年参加した学会"OMCOS"は、有機金属化学の分野において、とても大きな国際会議です。本会議は1981年に第一回が開催されてから2年周期で夏に開催され、 本年で30周年の節目を迎えました。毎回世界各国から一千数百人の参加者が集まります。私が修士課程の時初めて参加した国際学会もOMCOSでした。当時(2007年) の第14回OMCOSは、奈良で行われました。2011年第16回の開催地は以前私の父親が単身赴任していた上海でした。学会参加登録、参加費支払い、発表内容の要旨提出、 往復の航空券と宿の手配、発表するためのポスターの作成などの学会準備の過程で、私は自身の研究課題への思いを改めて実感していました。つまり、研究に取り組むにあたり 周囲の方々にどれほど支えられたか、発見をどれほど喜んだか、などを思い起こしていました。その私の思いが、発表の際、気持ちを持たないはずである分子構造や化学式、 数値の上に実験事実として表現されることはありうるでしょうか、と心中で投げ掛けていました。幸運にも、願いが伝わったかのように、学会2日目の私のポスター発表 に対して興味を持って下さる方も多く、また、開発の余地がある点に関しても議論が交わされ、よい助言を頂きました。
本学会では、500件を超える全てのポスター発表が一斉に掲示され、とても華やかでありながらも自身の発表と他の発表の見学とで忙しい時間を過ごしました。 口頭発表の聴講にては、現在世界で注目されている活きた化学を伺うことができました。発表や懇親会において、ドイツ、フィンランド、中国、シンガポール、 スイスなど様々な国籍の方々と出会い、お話をしました。また、学会準備と現地での生活に関しては、かつて私が外見で滞在させて頂いていた東京農工大学の田中健教授と その研究室の学生さんにとてもお世話になりました。その他にも日本の先生方に色々な場面で助けて頂きました。
学会5日目の閉会式において私はポスター賞を受賞することができました。 閉会式では最後上海にて学会を支援して下さった100人を超える委員の方々に感謝の拍手が送られました。上海のお料理をおいしく頂いたり、上海テレビ塔や上海海洋水族館、 黄浦江の夜景新天地を楽しく観光したりしたのもとてもよい思い出となりました。
井上 章さんの国際会議参加レポート
(自然科学研究科 化学専攻 修士課程2年 村松研究室)
参加学会:ゴールドシュミット会議2011(Goldschmidt Conference 2011)
開催期間:2011年8月14〜8月19日
場所:プラハ(チェコ共和国)
タイトル:「植物試料中C-14同位体比の経年変化に関する研究」Studies on annual variation of
14C/12C ratios in plant samples by AMS
【学会について】
Goldschmidt Conferenceは地球化学の分野の国際会議で年に1回行われる。今年はチェコ共和国のプラハで開催された。私にとって国際学会への参加は念願のものであった。というのも、昨年度3月にニュージーランドで行われたAMS12という国際学会に参加予定だったが、2月末に起きたニュージーランドでの大地震、そして3月学会参加目前で起きた東日本大震災の影響で参加を見合わせざるを得なかったことがその要因の一つである。また、国際学会に参加するということは研究を始めた当初からの目標であった。自らの研究成果を国際学会という最先端の現場で発表しディスカッションをすることが研究生活を送る中で大きな意義を持つと感じているためである。実際に参加した際には、学会のスケールの大きさに驚いた。あらゆる国々からの参加者たちが集い、盛んなディスカッションが行われた。
私の発表は一緒に参加した誰よりも早く、初めての公式の場での英語を用いた発表だったこともあり非常に緊張した。しかし英語が不自由であっても、事前にポスターや手持ち資料をしっかりと準備したことが功を奏し、国内学会よりも広い視野で議論ができたと感じている。中でも嬉しかったことは、同年代の海外の学生が何人かディスカッションに来てくれたことである。そういった学生達に刺激を受け、自分の発表の翌日以降では他の研究者の発表に対してディスカッションを持ちかけることもできるようになった。出会った際には挨拶をするような海外の研究者との新しい出会いもあった。
空港到着時、ポスターが到着しないアクシデントに見舞われたり、初めてのことばかり、緊張してばかりの学会ではあったが、国際学会という場の空気を生で体験し、その中で自身の研究成果を発表できたことを誇りに思う。濃密な一週間は確実に成長することができたと感じており、今後の研究に対しても努力して取り組みたいという思いがより一層湧いてきた。
【発表内容の概要】
植物試料中C-14同位体比の変動は大気中C-14濃度の変動を反映している。その大気中C-14生成量は、太陽活動の変動の影響を受け変動している。また、近年は大気圏核実験等によるC-14の為的な放出に起因して大気C-14濃度が変化する。光合成によってC-14を取り込む植物中のC-14同位体比を調べることで、過去の太陽活動の変動や人為的放出が大気中C-14濃度変動に与える影響を推定できる。本研究ではAMS(加速器質量分析計)を用いて植物試料中のC-14同位体比の変動を調べた。
チェルノブイリ周辺の松年輪中C-14同位体比測定からは事故のあった1986年の早材にのみ高い同位体比が検出された。原発事故の影響によって一時的に高くなった大気中C-14濃度の変動を年輪中C-14同位体比が顕著に、かつただちに反映することが明らかとなった。福島第一原子力発電所から約40 km地点の飯館村で採取された植物試料中C-14同位体比は近年の大気の値よりもわずかに高い値を示した。福島県の試料については今後更なる測定・分析が必要である。
【その他】
今回のチェコ共和国への渡航は、私にとってヨーロッパの文化に直接触れる、生まれて初めての機会であった。今まで行ったことのある海外はアジア圏ばかりであったので文化の差に驚くことの連続であった。緯度が高いため、夜9時頃まで明るい街は、昼と夜とで少し違った様相を見せた。プラハは観光の街であらゆるチェコ共和国の民芸品、伝統工芸品が集まり、多くの国の人々で終日賑わっていた。雄大なモルダウ川を観賞しつつ、大きくそびえるプラハ城とその城下町や世界最大と言われるユダヤ人街を散策し、 郷土料理に舌鼓を打ったりすることもできた。普段日本にいては経験できないような異文化に触れる機会であり、海外へ渡航することの楽しさを知った。
最後に、このような貴重な機会を与えてくださった、村松康行教授、また学習院大学理学部および学習院大学国際交流センターに心から感謝致します。
2.外国での教育・研究生活
宇田川将文 教授の海外研究レポート
(物理学科)
場所:マックス・プランク複雑系物理学研究所 (MPI PKS) (ドイツ)
【海外研究の概要】
2019年4月から2020年3月まで長期研修の機会を生かし、ドイツ東端の都市ドレスデンにあるマックス・プランク複雑系物理学研究所 (MPI PKS)に客員研究員として滞在しました。MPI PKSは理論物理学の研究所で、物性物理から生命、複雑系ネットワークに至るまで多様な分野の研究室を擁し、分野横断的な研究も盛んに行われています。小規模な国際会議が頻繁に開催され、また多くのビジターが滞在することが特徴で、研究社会のハブとしての役割を担う場所でもあります。一年間の滞在では、マヨラナ粒子と呼ばれる未知の粒子についての研究に取り組み、この研究所を中心にBordeaux大学、Cambridge大学、Oxford大学などヨーロッパの研究機関を歴訪して研究交流を深めました。折しも、滞在を終えて一年が経った昨日、共同研究の成果である論文がPhysical Review Letters誌に掲載されました。このような機会を与えてくださった学習院大学ならびに物理学科のみなさまに深く感謝するとともに、この経験を土台として今後ますます大学の教育研究活動に専念していきたいと思います。
2021/3/26
馬渕 一誠 教授の海外研究レポート
(生命科学科)
場所:Woods Hole 臨海実験所(MBL) (マサチューセッツ州 USA)
【海外研究の概要】
毎年、夏休みに米国マサチューセッツ州Woods Holeの臨海実験所(MBL)で実験しています。
この実験所はアメリカ最古かつ世界最大の臨海実験所で、アメリカはもとより世界の多くの生物学者が研究や会議のために訪れています。 ここに滞在した人から50名以上のノーベル賞受賞者がでたとされています。
私はここのDistinguished ScientistであるShinya Inoué博士の研究室にお邪魔することにしており、 ウニの卵細胞を使った実験を行っています。毎日、朝7時に朝食をとり夜12時頃まで実験ができるという夢のような日々を送ることができるのです。 しかも夏休みに訪れる各国の研究者と話をすることができます。まさに研究三昧です。
大学院生をはじめとする若手研究者のためにはいくつかのサマーコースが用意されていて、 1ヶ月超にわたり集中して生命科学の最先端の実験を体験することができます。その実験成果は学会発表のみならずトップジャーナルに論文として発表されることも珍しくありません。 このコースを出て著名な研究者になった人は数多くいます。皆様も挑戦してみてはどうでしょう。
山本康太さんの海外生活レポート
(2020年度 自然科学研究科 化学専攻 博士前期課程2年 秋山研究室)
場所:University of Oviedo (Luis A. López Laboratory)、EntreChem, S.L.
期間:2019年1月18日〜2019年3月18日、
2019年5月8日~2020年2月21日
場所:スペイン、オビエド
1. みなさんに伝えたいこと
留学は世界から日本また自分自身を見つめ直すことができ、別の視点を与えてくれます。つまり、自分が知らなかった世界を体験することで視野が広くなり、より人として成長できると思います。さらに研究留学では最先端の研究知識や技術を学べ、研究者同士の人脈が広がります。
留学には沢山のメリットがあるのにも関わらず学習院大学の理系で留学を経験する学生は少ないのが現状です。しかし、だからこそ留学には価値があると思います。周りの人ができない経験は自身の財産になります。ぜひ一度留学を検討してみてください。この体験記が一人でも多くの本学生が留学に踏み出すきっかけになればと願っています。
2. 留学体験
留学の動機は語学力の向上だけでなく、日本にいるだけでは得られなかった“外からの視点”を身に付けたいという思いでした。それは研究に関することだけでなく、文化や考え方も含めてです。近年グローバル化が急速に進み、グローバル規模で物事を捉え、リーダーシップを発揮できる人材が求められています。学生の期間に留学を経験することによりグローバル規模で物事を捉えられる“外からの視点”を得ること、さらにはレベルの高い研究者と切磋琢磨し、研究知識、技術を高めることでグローバル化が進む産業界で活躍できる人材になるべく留学を志しました。
(2) 海外研究の概要
(Ⅰ) 大学研究留学と研究インターンシップ
私は学習院大学を1年間休学し、スペインのオビエド大学(Luis A. López研究室)で約11ヶ月間研究をしたのち製薬ベンチャー企業EntreChem, S.L. – Biotechnologyで約1ヶ月間の短期研究インターンシップを行いました。オビエド大学のLuis A. López研究室では主に金触媒を用いた新規反応開発、EntreChemでは深共晶溶媒を用いた新規反応開発に携わり様々な経験をすることができました。
(Ⅱ) 大学研究 ~López研究室~
スペインのLópez研究室は学部生、修士学生が1人ずつ、博士学生が6人と比較的小規模の研究室ではありましたが教授4人、助教2人とスタッフの手厚い指導が受けられる教育体制の整った環境でした。コアタイムは9時〜19時で日本の研究室(有機)と比べ短くワークライフバランスを重んじる欧州文化が垣間見られました。さらに午前11時にコーヒーブレイクの時間があることや夏休みが約1ヶ月間、冬休みが約3週間とまとまった休みが取れることなど日本とは異なる点が多数ありました。一方でオンタイムは熱心に研究に打ち込み、いい意味でオンオフがしっかりした環境でした。所属していた研究室では、研究を進めるにあたりメンバー同士のコミュニケーションが重要でしたが、留学当初は英語力が十分ではなく、初めの数ヶ月は英語が堪能な博士学生、スタッフとスムーズな会話はできませんでした。しかし、英語の動画視聴等の一般的な英語学習に加え、英語で独り言を繰り返すことや積極的に友人と話すことを重視し勉強を続けました。さらに、研究室やパーティーなど友人と集まる機会の前には必ずスペインに関するニュースを読み、友人と円滑に会話するためのネタ集めをしていました。その結果、徐々に耳が慣れ、臆せずスピーキングができるようになると日常会話や研究ディスカッションを問題なく行えるようになりました。それでも留学中は英語でのコミュニケーションに不安を感じていたため、研究で信頼を勝ち取ろうと必死に研究に取り組みました。その結果、論文の投稿と新規反応を3つ発見でき、近々その反応に関する論文がもう一報投稿される予定です。留学の過程、成果ともに満足のいく結果になりました。
(Ⅲ) 研究インターンシップ ~EntreChem, S.L. – Biotechnology~
短期研究インターンシップに関しては、後述する奨学金獲得のために留学プランに組み込みました。しかし、インターンを行うプランは立てたもののインターン先が決まっている訳ではなく現地滞在中に受け入れ先を探しました。見ず知らずの日本人留学生を受け入れてくれる企業は非常に少なかったため、約半年間受け入れ先を探し続けることになりました。メールでの打診は音沙汰なく、また研究室のOBにコンタクトをとりインターンシップの依頼を行いましたが、安全面やメリット、情報漏洩の問題で承諾は得られませんでした。最終的にはオビエド大学から派生した製薬ベンチャー企業EntreChem, S.L. – Biotechnologyで1ヶ月間研究インターンシップをすることになりました。業務内容は企業から投稿する論文を仕上げるためのデータ集めが主な業務となり、大学研究と然程変わらない内容でしたが、企業研究のため効率や結果に重きを置いた研究の進め方でありアプローチ方法や考え方が大学研究とは大きく異なりました。約1ヶ月と非常に短い期間ではありましたが、大学研究と企業研究の違いが学べたとともに共著者として論文も投稿することができ、非常に充実した経験をすることができました。
留学中の研究成果は以下の論文として科学雑誌に掲載されています。
1. 大学研究(López研究室)での成果
Yamamoto, K.; López, E.; Barrio, P.; Borge. J.; López, L. A. Gold-Catalyzed [3+2] Carbocycloaddition Reaction of Pinacol Alkenylboronates: Stereospecific Synthesis of Boryl- Functionalized Cyclopentene Derivatives. Chem. Eur. J. 2020, 26, 6999 – 7003.
2. 研究インターンシップ (EntreChem, S.L. – Biotechnology)での成果
Lombardia, R.; Cicco, L.; Yamamoto, K.; Fernandez, J. A. H.; Moris, F.; Capriati, V.; Alvarez, J. G.; Sabın, J. G. Deep eutectic solvent-catalyzed Meyer–Schuster rearrangement of propargylic alcohols under mild and bench reaction conditions Chem.Commun., 2020, 56, 15165-15168.
留学中
留学期間で日本を客観的に考える機会が多くなり、日本の文化、海外との違いを意識するようになりました。例えば、3月8日の国際女性デーはジェンダー平等について考え、アクションする日です。留学先のオビエドでは町中の女性が仕事、授業を休みセンター街に集結しデモ活動を行なっていました。私はオビエドだけでなく世界中で大々的に行われているデモ活動の存在すら知らず、さらに仕事、授業を休んでまで参加するのは大袈裟だとまで思っていました。しかし、その後友人との議論や本で情報を得ることで、いかに自分が井の中の蛙であったかを恥じるようになりました。女性がこれまで受けてきた不平等を主張することは何一つ問題ではなく、寧ろ強く主張しなければ男女不平等社会が変わることはないと思うようになりました。日本にいるだけではあまり考えることのない出来事であったと思います。この例は一例に過ぎませんが他にも研究方法や環境、文化の違い等の気付きがあり、日本についても自分についても別の視点から捉えることができるようになりました。
留学後
留学期間で培った“外からの視点”は自分自身に様々な影響を与えました。大きな変化は自身の研究を俯瞰して考えられるようになったことと積極的にコミュニケーションをとるようになったことです。異なる分野の研究をすることでこれまで自身が行なっていた研究の役割、立ち位置を再確認でき、さらに異なる分野の知識が加わったことで新しいアイディアが生まれてきました。またスペインに限らず海外では積極的なコミュニケーションが大切であり、日本のように沈黙は金なりではありませんでした。自らコミュニケーションを取らないと完全に蚊帳の外となるため、積極性が重要であることを改めて痛感しました。帰国後、積極的にコミュニケーションをとることでこれまでと異なる人間関係(留学生や別コミュニティ)が構築できるようになり、この積極性の大切さは今でも痛感しています。これらの成長は留学を通じて外から日本や自分を見つめる“外からの視点”を経験することができたからこその成長と思っています。
(1) 奨学金
今回の留学費用は全て理学部の奨学金(大学院生の学術交流による国際交流の推進)とトビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム(留学奨学金)で賄うことができました。金銭面が留学の障壁になっている方は大勢いると思いますが「諦めないでください」と声を大にして言いたいです。
理学部の奨学金(大学院生の学術交流による国際交流の推進)は毎年3ヶ月未満の海外研究留学を行う学生(自然科学科最大2名)に渡航費や滞在費として上限25万円の支援を行うものです。申請は担当教授を通じて行うものになりますので留学を検討している方はぜひ担当教授に相談してみてください。
トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム(留学奨学金)とは意欲と能力ある全ての日本の若者に海外留学に自ら一歩を踏み出す機運を醸成することを目的として、2013年10月より文部科学省が開始したプログラムです。国家プロジェクトということもあり支援額が大きく、海外で十分に生活できるだけの奨学金をいただけました。(筆者の場合、月16万円+準備金25万円)また選考は語学力や成績は関係なく、留学への“熱意”が評価されることからこれまでの既成留学ではなく“本当にやりたい留学”をすることができます。申請は大学を通じて行う必要があり、学習院大学での窓口は国際センターとなっています。詳しい内容は下記のリンクを参照してください。
トビタテ!留学JAPAN 公式ホームページ : https://tobitate.mext.go.jp/
学外の奨学金 (国際センター) : https://www.univ.gakushuin.ac.jp/global/abroad/scholarshipprogram.html
(2) 体験記
留学資金は自ら調達するため上記のトビタテ!留学ジャパン日本代表プログラムという留学奨学金制度に挑戦しました。学習院大学(理系)で初めての応募ということもあり、全てが手探りの状況で教授、家族、友人や国際センターの担当職員等様々な人に協力してもらいながら応募しましたが、1回目の挑戦は不合格でした。しかし、留学を諦めることができず、従来予定していた留学時期を変更し、国際センターの方々や両親のサポートを受けながら、何のために留学するのか、なぜ留学が必要なのかについて深掘りした書類を再度作成、奨学金に再応募しました。その結果、奨学金を獲得することができ留学を実現することができました。倍率も高く応募する学生のレベルも高いため、自分一人の力では奨学金獲得は難しかったと思います。様々な人に相談し、書類をブラッシュアップしさらに面接対策することを強くお勧めします。
4. 海外生活について
サッカー好きの私にとってスペインは天国でした。留学先の研究室にスポルティングヒホンというサッカーチームの熱狂的なファンが大勢在籍していたため、ラボメンバーで毎週末サッカー観戦していました。またオビエド近郊でスペイン代表や有名クラブチーム(レアル・マドリード等)の試合が行われる時もスタジアムで観戦し、本場のサッカーを堪能しました。また、スペイン人は気さくでおしゃべりが大好きなため、すぐに友達が増えました。研究室のメンバーだけでなく寮やBarでも友達ができ、ドイツのオクトーバーフェストに友達と参戦、またクリスマスシーズンには各ラボメンバーの家族に招待され毎日豪華なディナーを楽しむことができました。
留学では辛いこと苦しいことも沢山ありましたが、楽しいことや新たな発見、出会い等掛け替えのない経験をすることができました。この体験記が一人でも多くの本学生が留学に踏み出すきっかけになればと思います。最後に、このような貴重な機会を与えてくださった、秋山隆彦教授、また学習院大学理学部および学習院大学国際センターの方々に心から感謝致します。
加藤 大典さんの海外生活レポート
(自然科学研究科 化学専攻 博士前期課程1年 岩田研究室)
場所:Columbus Ohio State University (Ohio USA)
【海外生活の概要】
僕はColumbus(Ohio USA)にあるOhio State Universityで1年間だけ研究を行います。
日本にいる時と違い、研究以外のこと(文化、言葉、法的制度・・・etc) も一から勉強しながら生活しています。周囲の方々の大きな助けを借りながらアメリカの生活に徐々に慣れてきました。研究はこれから始まり、 どのように展開していくのか楽しみです。
3.外国から日本へ 〜教育と研究に〜
馬渕 一誠 教授の海外授業レポート
(生命科学科)
場所:Temasek Life Sciences Laboratory (TLL)(国立シンガポール大学)
【海外授業の概要】
国立シンガポール大学で行った授業のお話です。
これまで、東京大学在任中から続けて7年間、この大学のTemasek Life Sciences Laboratory (TLL) という研究施設で生命科学の大学院生相手に授業をしました。 この研究施設は基礎生命科学の研究所で国際的にも高レベルです。シンガポールは国家的に生命科学研究を推進していますが、 純粋な基礎科学の研究所というのは2−3しかないそうで、そのうちの一つです。
大学院生はこの研究所の院生ばかりでなく、 分子生物学科など国立シンガポール大学の他部局の院生も聴講していました。シンガポールは中国人の割合が多いので、やはり中国人が多数ですが、 マレー人、ロシア人も必ずいました。
授業はパワーポイントスライド、プリント、ホワイトボードを使ってこちらでやるのと同じように行いました。 授業の内容はアクチン・ミオシンを中心とした細胞骨格系の生化学・分子細胞生物学の話です。聴講生はその分野の院生だけではないので、 全体のレベルは日本の大学院生と違わないようでしたが、必ず複数の熱心な質問がでました。ここが学習院大学と違うところです。 学期が終わると試験問題とhomeworkの問題を出し、答案とレポートの採点を10点満点で行って航空便で返送します。
4.二国間交流
廖 敏(リョウ・ビン)さんの留学生活レポート
(自然科学研究科 化学専攻 修士課程1年 村松研究室)
【留学生活の概要】
私は中国からの留学生です。中国の大学を卒業してから化学の知識をもっと深く学びたく、また日本の文化、生活を経験したいという気持ちから日本に来ました。今まで日本で過ごした二年半がすごく強い印象として残っています。
私は学習院大学の村松研究室に研究生として1年間いましたが、この1年間に、これまで以上に専門的な化学に触れたり、日本人の学生たちとコミュニケーションを取ってきました。私が本当にびっくりしたことは、日本の大学は学生の能力や考え方をきちんと大切にしているところです。みんながサークルに取り組むまじめな態度や、実験を自分力で精一杯のやる気持ちに私は本当に感動して、その雰囲気の中で、勉強したいと思っています。
研究室に4年生と院生たちの家庭的で温かい生活は、留学生の私にとって日本語の練習や日本の文化・風習の理解にすごく役立ちます。特に何か分からないと質問したら、私が感動させられるほど熱心に教えてくれます。
私はこれからまた修士課程の院生として2年間ここにいます。この良い雰囲気と教育環境の大学で勉強することを私はすごく楽しみにしています。